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風俗嬢のつくりかた 5 「脱・童貞記念日」

いつものように待機室でうだうだしていると、仕事が入った。

初めてつくコースだったので、コースの時間、料金、内容などが詳しく書かれたメニュー表を見ながら、プレイの内容をチェックする。

プレイ内容はコースによってかなり細かく決められているので、事前にきっちり把握しておかないと、プレイ中、一体どこまでやっていいのか迷うことがあるのだ。うっかり、料金の安い短いコースで、90分以上のコースにしか含まれていないような大技を披露してしまうと、こっちが損することになる。

そして今回は、と言うと。
「言葉責め・命令・拘束・縛り・性感責め・etc……」
なるほど。初心者向けのソフトMコース、ってな感じか。通常のMコースと違って、鞭や針やローソクなどの痛い系プレイが一切含まれていないってわけだな。OK、ちょろいちょろい──そう思っていた矢先。

なぜか半笑いの従業員が、私に言った。
「今回、オプションでぺニバンがついてます」
──2秒間の沈黙の後、爆笑。

ペニバン。正式名称ペニスバンド。張り型とか呼ばれるアレですよアレ。それを使ってくれと、ぶち込んでくれと、この私に言ってるわけですよ、その客は。これが笑わずにいられますかっての。

しかし名称(しかも略称)を聞いただけで何でわかるんだ、私。だから「SM経験ないわりに、話が通じやすいし理解が早いですよね」なんて言われるんだよ。すいませんね無駄な知識ばっかり豊富で。まさかここにきて役に立つとは思ってもみなかったけども。

それにしても、ぺニバンとはねえ。オプションでそんなものつけるぐらいなら、最初から普通のMコースにしたらいいじゃねえか。
だいたい、使える道具が少ないと、その分言葉でひっぱらなきゃならないから大変なんだよ。私なんか、入店してまだ2週間しか経ってないんだ。言葉責めなんてまともにできねえんだよ。無言責めになっちゃうんだよ(いばってどうするという気もするが)。

でもいいか。なにしろ今回はぺニバンだ。これ1つで、かなりの時間を消化できると見た。あとは適当に縛ったり転がしたりなんかして、誤魔化してりゃなんとかなるだろ。

多少の不安が胸に残るが、初めてのぺニバンプレイにちょっぴりうきうきだ。身支度を整え、お道具の詰まった大きなバッグを肩に担ぎ、従業員からペニバンの入った袋を受け取ると、軽やかな足取りで客の待つ部屋に向かった。

──ぺニバンを所望したその客は、どう見てもまだ20代前半の若造だった。……いいのか、おい。こんなことして。親が知ったら泣くぞ。って、そう言う私も全然人のことは言えませんけどね。ええ、まったく。

だが「若いみそらで何考えてんだか……」と思ったのは最初のうちだけだった。よくよくそいつを観察していると、なんだか妙に納得できるのだ。

とにかくめっちゃくちゃ暗い。こっちが気ィ使って色々話しかけてやってんのに、ほとんど何も喋らない。思いつめたような顔してうつむいているだけという、典型的なM男タイプ。いかにもぺニバンで犯されたいとか思ってそーな感じだ(先入観+雑な識別)。

間がもたないので、とっととプレイを開始することにした。
つついて縛って言葉で嬲って――と、軽く前菜をこなしていると、そこには確かな手応えが。……私のアバウトな識別は、わりと正しかったらしい。こいつ、ばりばり全開のM男くんです。もお完全に出来上がっちゃってます。

やたら反応が激しいし、亀甲縛りされた自分の姿を、誰も命令していないのに自主的に鏡に映して恍惚としてやがるし。いいねえ、実にいい。相手がノリのいいM男だと、こちらもスムーズに女王様モードに移行できる。私もすっかりノリノリだ。

この機会に、言葉責めを兼ねた質疑応答をすることに。事前に聞き出せなかった、希望のプレイや好きなシチュエーションなど、今後の展開に関わる色々についてさりげなく聞いていく。

──その中で、衝撃の事実が発覚した。

聞けば、このM男、アナルはまったくの初めてらしい。おいマジか。てっきりベテランのアナルマニアだとばっかり思ってたぞ。いきなりペニバンにトライ? 普通はアレコレやってから行きつくもんじゃないの? イマドキのM男くんってみんなそうなの?

……まずい。俺ら、処女と童貞だ。これは苦戦が予想される。入念な下準備が必要だろう。とは言っても、準備のやり方なんぞまったく知らん。どうするよ。つってもどうしようもない。やるしかないだろう。まああれだ、ほら、とにかく穴を広げりゃいいんだろ、広げりゃあ。

指にコンドームを装着し、未知の扉をこじあけにかかった。ローションを大量に使用して、なんとか指1本が入ったが、かなりきつい。こんなんで、ほんとにぺニバンなんか入るのか? 不安に思いながらも、指2本が入るまでぐりぐりし続ける。

ぐりぐりぐりぐり……いやあ、実際にやってみるまでは、女王様ってもっと立派な職業かと思ってたんですけどね。ぐり。けっこうマヌケな商売だったんですねえ。身をもって知りましたよ。ぐりぐり。

「こりゃあ確かにコントのネタになるよな」──そんなことをぼんやり考えているうちに、指にかかる圧力がだんだん弱まってきた。ツーフィンガーがするする入る。オッケー、準備完了。ま、こんだけ緩めておけば大丈夫だろ、たぶん。……たぶん。

さて、いよいよお待ちかねのメインディッシュ、ぺニバンの登場だ。さきほど従業員に手渡された袋の中から、おもむろにブツを取り出した。

じゃーん。ペニスバンド~!(ドラえもんの声で)

す、すげえ……。 あたりまえだが初めて見たぞ! すげえ、つーか怖え! 手に取ったプツのあまりのインパクトの強さに、思わずM男ほったらかしでまじまじ見入ってしまう。
そのブツの形状を詳しく解説するとだな──

「今回ご紹介するのは、こちらのペニスバンド。
ご覧ください、この精巧な作り!
そそり勃つペニスをかたどった直径3.5センチ(目測)の張り型には、亀頭はもちろん、浮き上がる血管までもがリアルに再現されております。

そして本体の下には、ひとまわり小さいミニサイズの張り型も用意されており、初心者の方でもお気軽にお試しいただくことができます。
素材はシリコンでできており、どなたの直腸にもピッタリフィット。先端のみ、やや固めの仕上がりになっておりますので、挿入も実にカンタン!
色は、格調高い黒をご用意いたしました。さて、気になるお値段は?」

──と言ったところか(どんなところだ)。

ドキドキしながらも、さっそく装着してみることにした。さあて、どんなもんかな。果たしてそれをつけた自分の姿がどんなことになっているのか、興味シンシン、うきうきわくわくだ。

──鏡を見ると、不思議な生き物がそこにいた。

黒光りするボンテージにの股間には、にょっきり伸びた2本のペニス……。両性具有の悪魔というものが存在するなら、たぶん今の私の姿に非常に近いと思われる──正直、怖い。

……なんか、ヤなもん見ちゃったな。
変わり果てた自分の姿に軽いめまいを感じながらも、M男を四つん這いにさせ、バックから挿入しようと試みた。鏡の中の自分には、極力目を向けないように。

しかし、これがなかなかうまくいかない。「挿入も実にカンタン!」っつーのは嘘だったごめん。このぺニバン、先端は固いが筒の中が空洞なので、くにゃっと折れたり曲がったりして、スムーズに入ってくれないのだ。む、むずかしいかもしんない。

必死に頑張っていると、M男が突然「それをつけた女王様の姿を見せてください」などと言い出した。おまえ、余裕の発言だな。こっちの苦労も知らないで。いいよわかったよ。見ろよ、好きなだけ。視覚を大事にする奴なんだな、こいつは。……そうだ。イイこと考えた。

ただ見せているだけではつまらないので、私はM男に命令して、ぺニバンをしゃぶらせることにした。

──おおお! なかなか爽快だ。

面白いぞ。面白いぞこれ。なんだか男がフェラチオさせたがる気持ちがわかるような気がするぞ。
これはアレだ、単純に気持ちいいからって理由もあるんだろうが、絶対それだけじゃないね。目の前に跪いて自分のモノをくわえる女の姿を見て、自分が偉くなったような錯覚をしてるに違いない。意味もなく頭を押さえたりすんのもそのせいじゃないのか? つーか、マジで今気分いいもん。なんか新発見だな。そんな発見しなくていいって気もするけど。

すっかり調子に乗った私は、M男の髪をわしづかみにして「もっと奥までくわえろよー」とか「もっと舌使え」などと、まんまAVの影響を受けたようなことをして遊ぶ。そんな使い古された言葉責めで、より興奮の色を濃くするM男。楽しい。楽しすぎるぜこいつは。

けれど、そろそろ本番に移らないと時間が足りなくなりそうだ。そう思い、態勢を変えようとするが、M男くん、これがすっかり気に入ったようで、ぺニバンから口を離さない。もういいって言ってんのに、必死に追いすがってくる。そんな姿が、母親のおっぱいに吸いつく赤ちゃんの姿に重なり、なんだか可愛く思えてくるから不思議だ。そんな和やかなことを考えてる状況じゃないんだが。←状況としては、むしろ対極だ。

──その時だった。
またしても唐突に、彼は、一瞬呼吸が止まるかと思ったほどの名言を吐いたのだ。

「女性にこうしてもらうの、夢だったんです」

……壮大な夢だね。素晴らしい夢だよ。君のようなスケールの大きい夢を持った人を私は尊敬するよ。あんた最高だよ。

今なら。今の私ならば、にっこり笑って抱きしめるぐらいの対応はできただろう。だけど、この時の私はまだ生まれたてのヒヨコとほぼ同レベルだ。いきなりそんな思いがけない素敵なセリフを吐かれても、うまいリアクションなんか取れねえよ。

けれどもこの言葉は、私の心に深く刻み込まれ、この先、決して忘れることはないだろう。これからの人生に何があろうと、私はこの言葉を胸に、強く生きていける。ような気がする。

いや、M男の名言に心を打たれている暇はない。早いとこコイツを入れちまわないと。リアクション取り損ねて、どうしていいかわからなくなりながらも、本日の課題、ペニバン挿入に再び取りかかることにした。

今度は正常位でも試してみるが、どうしても先がうまくひっかからない。やはり初めて同士では無理なのか? だんだん不安になってくる。
刻々と迫るタイムリミット。気ばかりが焦る。それでも、途中で任務を放り出すわけにはいかない。あれこれ体位を変えてみたり、角度を調節してみたり、半分諦めかかってみたり、試行錯誤を重ねた結果──ついに、とうとう、やっと、なんとか挿入に成功した。

うわ、なんか感動的……。って、こんなことに感動してどうするよ俺。他にもっと感動することは沢山あるだろうに。なぜよりによってこんな場面で感動しなきゃならない。でもでも、初体験の時の男の心境って、こんな感じなんだろうか。

これで私も童貞じゃなくなったっていうことか──なんだか感慨深いな。

遠い目をしている場合じゃない。思わず本気で感動してしまったが、これで終わりではないのだ。挿入したら、次は動かなくては。
腰を使う──つっても、見よう見真似だから全然コツがつかめない。しかもベルトで固定してあるだけだから、下手に動くとすっぽ抜けてしまうのだ。

「位置が悪いせいだ」と考え、バックから正常位に移る。すでに一度貫通しているため、正常位でも難なく挿入できた。が、動くのは余計に大変だった。なんせ相手は「超下つき」。動きにくいったらありゃしない。

なんとかスムーズに動けるようになった頃には、全身汗だくになっていた。顔から胸から、滝のように流れ出している。エナメルのボンテージの下がどんなことになっているかなんて、考えるだけで気持ち悪い。これって、こんなに疲れるものだったのか。男って大変なんだな。

ぎこちないながらもひたすら突きまくり、そろそろ「抜き」にかかろうと、そのまま同時に手でしごいた。←何を?
ところがM男は、ガーッと一気に抜き去ろうとする私の手をそっと制止し、

「自分でしても、いいですか? ……見てて下さい」

と言うのだ。そいつはおおいに結構ですよ。むしろ非常に助かります。

「それで……自分のお腹の上に、出してもいいですか?」

いやもう全然いいスよ! もちろんですよ! すいませんね、何から何まで。

これでもう私の役目は終わった。あとは彼の自主性に任せよう。ぺニバンを抜いて、縛っていた縄をほどいてやると──このM男、やはりただ者ではなかった。

まるで女がオナニーするように、片手で自分の身体をまさぐり、全身を妖しくくねらせ、悩ましく喘ぎながらしごき出したのだ。←こいつもAVじみている。

……かける言葉が見当たらない。

邪魔できない。って言うか、したくねえ。もはや黙って見守るしかなかった。ひとりで盛り上がっていくM男をなすすべもなく見下ろしながら、私の初のぺニバンプレイは終了したのだった。

どうやら私は、またひとつ無駄に大人になってしまったようだ。
昇らなくてもいい大人への非常階段を、また一段、昇ってしまったらしい。
……のぼりつめた先に、明日はあるのだろうか。

今は、考えないでおく。

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